HP独占インタビュー【rice活動休止について】
第4回連載「海外見聞録」
第3回連載 特別企画「rice×ACID」
Raphaelの12年ぶりの復活を目前にした10月上旬、突然riceの無期限活動休止と、ライヴ「赤坂BLITZワンマン公演」がオフィシャル・サイトで告知された。シングル「Fake Star」のリリース、これからの活動が注目される中での告知ということもあり、詳しい事情というよりも、今後のことも含めた活動はどうなるのか?いうことで、櫻井有紀、村田一弘のふたりに話を聞いた。
――突然のriceの無期限活動休止告知だったけど。
有紀:バンド自体はうまく行ってるんですよ。ライヴも少しずつだけど動員は増えてるし。ただこの告知がRaphaelの再演ライヴと重なったことで、「Raphaelをやるというのが理由でriceをストップさせる」という風に捉えられると、それは違うんだ‥‥ということはきちんと伝えたかったんです。ですから、正直なところ数ヶ月前からブログなんかではずっと自分なりに伏線を張っていました。「現在のスタイルでriceを運営していくには人手が足りない」とか、「ミュージシャンとしての本分からズレてしまっている日々が続いてます」とか。半ば愚痴っぽく訴えていたんです。そういった経緯を念頭において、10月8日のファンクラブ・イベントでriceの活動休止を発表しました。
ヒロ:役割分担といったところでは、プロダクションとしてのエアーズロックの運営や、いろいろなプランニングや交渉はほぼ有紀がひとりでやってくれてるんです。負担が大きすぎるのもわかってましたし。だから、そういうのは整理しないといけないな、と前々から思ってはいたんですけど。
――たとえばriceの場合、会社があって、マネージャーがいて、経理がいて、ファンクラブ担当がいて。そこでバンドが音楽をやる‥‥という状況ではないわけで。確かにヒロがその中のどのポジションに一番向いてるかというと、やはりバンドのドラマーということになる。
ヒロ:多分‥‥そうですね(笑)。
有紀:ライヴを赤坂BLITZでやろう‥‥ということになって。でもあそこは会場が大きいので、スタッフのみんなも「やるからには頑張ろう」と気合が入り過ぎている節もあったんでしょうね。前を向いて楽しもうってモードじゃなくて、すごくピリピリしてしまった。確かにRaphaelも同時進行してるから、そちらのチームに対して妙な対抗意識みたいなものもあったかもしれないけど、riceは人数も少ないし、むしろその手作りな部分が良さでもあるチームなのに。一方そうはいっても、いつまでも僕が事務作業に拘わっているわけにはいかないということもあって。
――二足のわらじを履くって大変だものね。
有紀:意外とね、この2足は履き心地よくないものですね(笑)。こちらを立てればあちらが立たず‥‥みたいな。
ヒロ:たしかに結構ゴタゴタしてたので、まあ、一回役割分担とか、そういうのは整理しないといけないなって。
――だから、今回のことはriceが終わるわけじゃなくて、一度リセットしてリフレッシュするということかな。気持ち的にも実務面的にも。
ヒロ:そうですね。気持ち的には、決してriceが終わるわけでもないので、またステップアップするための充電期間として捉えてます。一度リセットしようか、という‥‥前向きな活動休止ですから(笑)、まあ。
――とにかく充電期間を置くわけだけど、だったらそのあいだにこれをやろうとか、目算みたいなものはないの?
村田:根室に行きたいです(笑)
――根室(笑)、riceの原点だね。(*12年前、Raphaelの活動をストップさせた直後、根室にある有紀の祖母の家にふたりで一週間ほど滞在し、そこでrice結成の話を詰めたエピソードがある)
有紀:本当に、なにもないところなんですよ。信号もない(笑)。
――そうなんだ(笑)?今までは、そういう余裕、たとえばバンド活動の合間にオフを取って一週間ぐらい旅に出る、とかはなかったの?
有紀:ないですね。ときどき、二日間ぐらい頑張って休みを取って、夏はキャンプで、朝まで呑んで‥‥ぐらいかな?
――それ以外はずっと仕事だったわけ?
ヒロ:そうですね。いつもなにかしらはあったから。
有紀:今年は、毎年恒例だった夏のキャンプも行けなかったからね。
――じゃあ、確かに一息つくのにはちょうどいいチャンス?
ヒロ:あ~、でも今回もライヴの間を少し開けて休む‥‥という感覚で、本格的に活動休止を宣言するとかいうことは、俺は全然思ってはいなかったですね。
――最初に有紀から話を聞いたタイミングは?
有紀:お寿司屋さんだったよな。夏ごろ、お寿司食べたとき。
ヒロ:そう。
有紀:最初にriceやろうって言った時もお寿司屋さん。福島のお寿司屋さんだった。
――お寿司とか、海産物が好きなんだ。じゃあ、根室で海鮮三昧だ。
ヒロ:そうっすね(笑)
――(笑)その前にクリスマスのriceのライヴがどうなるか、実に楽しみなんだけど。この機会だから全曲演ります、とか(笑)
ヒロ:なかなかそういうわけには(笑) なにしろ100曲ぐらいありますから。
有紀:ノンMCで8時間は堅いなぁ(笑)。MCやブリッヂを入れることを考えると4日間…5日間は欲しい(笑)。
――それはスゴ過ぎる(笑)。ファンのみんなは、休止宣言に関してどんな反応だったの?
ヒロ:ありがたいことに、“淋しいのはやっぱり淋しいけれど、より進化したriceを待ってます‥‥”みたいな前向きな言葉をたくさんもらって。淋しい‥‥だけで終わらない文章がほとんどで、暗い思いのまま終わってるメールはなかったんです。ホッとしてます。
――クリスマス・ライヴが終わると休止期間に入るわけだけど、実際には、どんなことがどうなったら次の動きが見えてきそうなんだろう?
有紀:「無期限休止」というと、そのままフェードアウト〜みたいな印象があるかもしれないんですけど、riceの場合は、もうワンステップ先を目指せる目処が立ったら、なるべく早くに発表が出来る方向で頑張りたいと思ってます。
――ファンクラブの活動も継続して。
有紀:実際に活動を続けてないバンドのファンクラブに誰がいつまでも会員継続してくれるんだ‥‥という話になっちゃいますから、やはり復帰の期日は一日でも早いにこしたこと無いと思ってます。休止期間中は、ふたり個々のアーティスト活動を随時伝えていく情報ターミナルとして継続していきます。なので、実質的に心身を休める時間はどこにもないです。
――ヒロは、自分で情報発信をしていく媒体は持ってるの?
ヒロ:ブログはやってます。そこでライヴの情報なんかは上げて行きますけど。
――なるべく、まめに更新なさい(笑)
ヒロ:はい(笑)。
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追記
というインタビューをRaphael再演前のタイミングで行っていた。その後に行われたRaphaelの感動的な2日間のステージ、情報サイト「ナタリー」でのライヴ・レポートや、riceの(今回の活動休止に関する)ロング・インタビュー(http://natalie.mu/music/pp/rice)などでふたりの気持ちや考えは伝えられている。後は少し個人的な想いを書いて終わりにしたいと思う。
…
Raphaelの休止、そしてriceのスタート。12年後のRaphaelの2日間だけの復活、そしてriceの無期限活動停止。すべては「R」という文字に込められた、YUKI/有紀の気持ちに端を発することだろう。
しかし、これは筆者の勝手な憶測であることを前提にしたテキストである。文責はすべて筆者にある。
愛憎入り交じる感情、互いの天賦の才を認めるからこそ、ぶつかり合うしかなかった華月とYUKIという二つの希有な才能。身体を、精神を賭した華月の過剰な表現方法は時としてその生存本能を超えるものになっていく。それをYUKIが気遣うことは表現活動を妨げることなのか、それ以上に、そこまで自分自身を追い込む必要があるのか‥‥。しかし、ことここに至ってはそういった何が是で何が非であるかの議論は不毛なものに思えてくる。高さと長さは同じ面の違うベクトルだ。
【R】はRaphaelとriceの頭文字だ。その文字を10代の半ばから、20代を超え30代に入った現在まで背負ってきた。「eternal wish~とどかぬ君へ」は「Fake Star」につながる。「あの頃の僕らが~」と歌われた世界が、現在目の前にある。時間が追いついた、時が巡った。だから今なのだ。この2012年という年の終わりに、さまざまなことをリセットする。華月の命日のRaphael復活ライヴ、その後に始めたriceのクリスマス・ライヴをもっての活動休止。その翌日の『Raphael再演ライヴDVD』の発売。
12年前、突然止まってしまった時計をきちんと止めるためには、それだけの時間とエネルギーと気持ちが必要だった。背負った荷物は想像以上に重いものだったに違いない。無意識にした行為でも身体は正直だ。休みは必要だ。それは休むための休みではない。ずっと背負い続けてきた荷物を降ろす‥という休みだ。
地に足をつけ歩み続けてきた12年。見事に実った稲穂を収穫して、あらたな種籾を選び出す時期だ。その一粒からやがて一面が黄金色に輝く世界が生まれていくことを想像しよう、そして祝福しよう。終わりではない、これで終わるはずがないのだ。
文・インタビュー 井口吾郎