HP独占インタビュー【rice活動休止について】
第4回連載「海外見聞録」
第3回連載 特別企画「rice×ACID」
「六極シンパシー」発売記念インタビュー
10月21日に、約10,000時間を制作期間として費やしたアルバム『六極シンパシー』をリリースしたrice。立体的に、多角的な形で言葉が届くように……との想いを込めて名付けられたこのアルバムを、1曲1曲掘り下げていきながらひもといてみました。 riceのこれまで、そしてこれからを占う、とても重要で大切な1枚になったことは間違いがないようです。いろいろな発見があるからレコーディングはやってて楽しい!
──制作期間に約10,000時間を要したアルバムがついに発売になりますね!この1枚を聴いて、riceってつくづくアルバム・アーティストだなって思ったんだけど……
有紀:単純に、制作期間が長い=楽しい期間が長いっていうことだから。だから、シングルよりは俄然やる気は違ってくるよね。熱の入り方が曲数に比例するっていうか。
──レコーディング、楽しいんだ?
有紀:好きだ~!
HIRO:大好きだね~!
──アーティストさんの中には、“レコーディングは苦しいから辛い”って言う人もいるけど、riceは違うんだ?
有紀:だってさ、いろいろ見えてくるから勉強になるもん。
──今回、勉強になったなって思うことは?
有紀:やっぱり、「Fractal(M-3)」だよね。
HIRO:そうだね。
有紀:当初予定してたテンポから3上げて録り直したんだけど……
HIRO:当日、レコーディングしてる途中で3上げたんだ。
──え、当日に?
HIRO:そう。元々、ミドル・テンポっていうこともあって、どういうノリにするかを録りながら考えつつやってたんだけど。でも、“これ、どうなんだろうね?”っていう疑問が沸いたから、“いっそのこと、テンポ上げてみる?”ってことになって……
有紀:たった3、テンポを上げただけでグッと表情が変わって。
──プリプロで合わせてたテンポと変わるって、結構大変なことだったのでは?
HIRO:でも、ライヴでもわりとやり込んでる曲ではあるから、なんとなくイケちゃったっていうか。
有紀:実は、歌的にはテンポをたった“3”上げただけでどこまで変化が生じるのか想像がつかなかったんだよね。だから、最初にHIROから提案された時も、“歌的にはどれぐらいの違いが出るかわからないけど、まずまず問題ないはずだよ”って。言うなればHIROはリズムのエキスパートな訳でしょ? たった3の違いだったとしても、テンポチェンジしたことで何かが良い方向に変わるんだったら絶対その方がいいから……っていう感じだったんだよね。
──で、実際にやってみたらいい手ごたえがあったと。
有紀:ギュッとしまるっていうのかな? 明るくなるし、エッジが立った感じがいいなあと思って。ホントに、これだけ長くriceをやってきて、突然テンポを変えるなんて初めてのことだったけど……こういういい結果を生むこともあるんだなって思った。
──ほかに、手ごたえを感じたエピソードはあった?
有紀:今回、6曲のうち2曲だけエンジニアさんが違うんだけど、それもまたいい刺激になった。今回riceの掲げたスケジュールが急だったこともあって、いつもお願いしているエンジニアさんの都合がどうにも付かない日が出ちゃって。で、ピンチヒッターとして、信頼できる人に入ってもらったんだけど……やっぱり、音の作り方が全然違うんだよね。エンジニアさんひとり違うとここまで変わるのかっていう、その発見も改めて勉強になったなって。
──わざとそうしたわけではなかったけれど、結果的にいい発展を生んだんだ。
有紀:実際、riceは曲のイメージによってプレイヤーに依頼するシーンを使い分けたりはしてるからね。自分でベースを弾いてみることもあれば、“この曲はやっぱりふーみん/淳ちゃんに任せたい”と思ってお願いすることもある。考えてみればそれと同じことだったのかもしれない。
六種“六極”六様の楽曲を打ち出した1枚
そんな意味を込めたアルバムタイトル
──さっきの話じゃないけど、8年もriceをやってきてはいても、やっぱり、吸収すべきことってまだまだあるんだね。たぶんそれは、技術面でもメンタル面でもそうだと思うし……そういったことがタイトルなり曲のメッセージなりに現れてきたりもするのかなって思うんだけど。今回のアルバムタイトル“六極シンパシー”に込めた意味は?
有紀:今回は一番最後にタイトルを決めたんだけど、アルバム収録の曲数(6曲)にもかかってるし、あとは、“六極”っていう言葉の中で一番取り入れたかったのが“六方”っていう意味。
──六つの方角?
有紀:うん。天と地と東西南北。その、“方角”っていうのを、音楽性だったりリリックのコンセプトだったりでもいいんだけど……“六種六極六様の楽曲を打ち出した1枚だよ”っていう意味でのネーミング。でも最初は、“六つが合わさる”っていう意味で、“六合(りくごう)”にしようかと思ってたんだよね。
──六曲が合わさる?
有紀:うん。でも、“合わさる”っていう願いより、極める(果て)っていう願いの方が勝った。もちろん、1枚のアルバムにまとめるっていう意味では楽曲たちが連なり合わさっているんだけど……もうすこし掘り下げて考えていったところで、“六極”のほうがふさわしいと思って。だから、どっちかっていうと、“六方体”っていう捉え方に近いかも。“根源はいつまでもひとつの場所から発するけれど、いろいろな方向に伸びてるんだよ”っていう。
──そこに、“シンパシー”という言葉を合わせたのは?
有紀:シンパシーは、直訳そのまま、“共鳴する”っていう意味で使ってるんだけど……今回、サブテーマに、“人間愛”みたいなものを掲げたの。6曲ともに“愛”にまつわるリリックで展開してるから、そのあたりもタイトルにリンクしたらいいなっていう願いも込めつつで。
──シンパシーって、愛につながっていく感情だものね。その、“愛”にまつわるテーマが全編におかれたことには、何か考えがあってのこと?
有紀:すごく急に決まったリリースプランだったこともあって……まず、今のriceが抱えているストックの中で、リリース作品にできる曲はどのあたりだろうってリストアップしていったの。プラス、録り下ろしの曲と合わせることも考えつつ、一番コンセプトとして打ち出し甲斐があるのは、広い意味での “愛”だなって思って。だから今回は、ストックの曲に助けられた感じがすごくある。テーマを決めることに翻弄されて悩むこともなく、最初からレールを引いた上で肉付けしながら作っていけたから。
──では、1曲ずつ詳しいエピソードを聞いていきながら、『六極シンパシー』の深部を探っていこうかな。まず、1曲目の「Hello」。これはライブではもうおなじみの曲だけど、なんといってもコーラスワークが冴える曲だよね。
HIRO:うん。コーラス、たっぷり入れてるよね。
有紀:これは、ライヴ先行で発表してる曲だったからか、レコーディングがすごくスムーズで。すごく早く録り終わったよ。もちろん、音源先行で曲を発表する時もいい面があるけど、この曲は事前にやりこんでいたからこそいい感じで録れたかなって。
──逆に、いろいろと考えて時間がかかったっていう曲はある?
有紀:やっぱり、テンポを途中で変更した「Fractal」(3曲目)。
──これも、ライヴで結構やってる曲ではあるけど……テンポの件をはじめとして、音源にするにあたっていろいろ考えた?
有紀:ライヴではもっとスパークしてるんじゃないかな? やっぱり、レコーディングとライヴって歌ってる時の感覚が違うから、歌録りする時に、“あれ? 普段ここのメロディはどうやってシャウトしてたっけ?”って。
──何度かテイクを重ねていきながら思い出した?
有紀:いや、結局、レコーディングにはレコーディングの良さがあるんだなっていうことを再認識した形になって……ライヴでの演奏を思い浮かべながら聴くと、“別の人が歌ってるのかな?”っていうぐらい違うものになった。
──それはそれで興味深いな。
有紀:やっぱり、CDってさ、ノれるっていうより聴けるっていうことにどうしても重きを置く自分がいるから。歌詞カードがあろうが写真があろうが、CDはやっぱり音が大事。それに改めて気づけたし、ライヴでいかに自分がトランスしてるのかっていうこともわかった(笑)。
──「Fractal」で叫べなかったこともあったし(笑)。
HIRO:ライヴとレコーディングじゃ、まず、テンションが違うだろうからね。ざっくり言えば、レコーディングのほうが内面的にシビアになれるし。
──レコーディングが好きなのは、そういう感覚も込みでなのかな?
HIRO:自分の演奏をすぐに聴けて、それがどうなんだっていう判断も自分でできるし。そういう作業が楽しい。
──たぶんそれって、ある程度のスキルが確立できてるからそう思うんじゃないかな? レコーディングが辛いって言うのは若い子から聞くことが多いし……
HIRO:ああ、そうかも知れない。自分の演奏をどうコントロールしていいかわからなくなっちゃうのかも。
──そういう意味でいくと、レコーディングを楽しめるって言えるriceは、熟練してきてますね(笑)。
HIRO:いや、まだまだ。俺は駆け出しものですから。
有紀:この枝豆野郎!
HIRO:あはははは(笑)。
──なんで枝豆?(笑)。
有紀:最近、枝豆づいてるから。
「影送り」を聴き終わったところでひとつのテーマが完結する
──話がズレたところで次の曲へいきましょう(笑)。2曲目「Crunch」。この曲のレコーディングはいかがでした?
有紀:これもわりとスムーズだったかな。
HIRO:これは、テンション一発みたいな感じだったかな。ライヴでもよくやってる曲だけど、やっぱり、さっきも言ったように演奏する感覚が変わってくる。でも、そんな中でも、なるべくライヴに近い熱い感じを目指してやったかな。そうしたら、ライヴでも叩いたことのないようなフィルがでてきたりして。
有紀:そういうこと、よくやるよね。笑い話なんだけど、“プリプロ(アレンジなど、収録時前に摺り合わせるRHの事)の意味ねえ!”っていうぐらいバケる時があって(笑)。
HIRO:そうなんだよね(笑)。
有紀:リズムが変わることでヴォーカルなんかブレスポイントが変わることがあるからね。
──でも、それでも最終的にはキッチリまとめてくるあたり、さっきの話じゃないけど……スキルがあってこそでしょう。では、4曲目の「片輪の花」。ちょっと変わったこういう曲調が後半に入ることでアルバム全体の奥行きが出ておもしろいですね。
有紀:そうだよね。ノスタルジーがテーマだったんだ。
──個人的には、こういう、歌謡曲タッチの歌はすごく有紀くんのヴォーカルが映えると思いました。
有紀:こういう曲調、こういう叙情のリリック。好きなんだよね。とはいえ、riceには異質の曲ではあると思うけど……アルバムタイトルにも込めた願いのままっていうか、“六種六様”っていう意味では、コイツがメニューの中に居たら絶対にいいなって思って。
──テーマ的にも、“愛”ではあるし……。
有紀:ちょっと屈折してるけど、これもひとつの愛の形ではあるからね。
──こういう曲調、リズム作りはどうですか?
HIRO:もともとのデモとはちょっと空気感を変えたんだよね。チューニングも、ノスタルジーな雰囲気に合わせていつもよりちょっと高めにしたり。そうしたほうがレトロ感も出るだろうし……そういった遊びができた曲だったかな。
──そして5曲目の「余韻」。ヒネリのある「片輪の花」からストレートな曲に続く流れがニクイ。
有紀:いわゆる“rice節”というセオリーに掲げやすいサウンドだよね。これは、まったく迷わずできた。構成から展開、歌い回しまで……今まで積み重ねて来たものが如実にイキてるというか。まあ、テンポがあまりに早過ぎて、ベースをフルダウンで弾いてたら腕がプルプルしちゃったとか……そういうハプニングはあったけど(笑)。
──この疾走感の裏にはそういった苦労話も(笑)。
有紀:で、演奏の途中でHIROとTEL-SEAに“違和感”を感じさせないようにオルタネイト(アップ&ダウン奏法)を織り交ぜてみたりもして。絶対に全編通してダウンばっかりにしなくてもいいんだって思ったんだよね。意外と、温度差があるプレイが挟まれてると結構イキたりする時もあるんだよね?
HIRO:そうそう。
有紀:だから、この曲にはいろんなパターンが盛り込まれてるんだ。たとえば、ドラムだけががんばっているのがカッコイイ部分や、楽器が一斉にたたみかけるカッコ良さとか…… HIRO:疾走感の中にちょっとふわっとした感じがあったりね。そういうのは良かったかも。
──そして、最後の「影送り」。なんて言うのかな……この曲と1曲目の「Hello」って、曲調も楽器の聴こえ方もまったく違うんだけど、メッセージ的にはすごくリンクしている気がして。アタマと最後がこの2曲であることで、六つの点がつながってキレイな立方体になってる気がしたの。
有紀:そう。リピートして聞くと、アタマと最後って隣同士でしょ? 通常、riceのアルバムで最後を担っていたのが「Air」なんだけど……今回は収録曲数の関係もあって、いつものrice的サブカルチャーはあえて外して。そんな中、「Hello」と「影送り」がいい相性でハマッてメニューが組めたかなって。
──「Hello」も「影送り」も“友達”というモチーフが共通しているけど……。これもやっぱりひとつの“愛”なんだよね。
有紀:見ているものは一緒。「Hello」は“こんにちは”で「影送り」は“さよなら”で……出会いと別れを描いているようだけど、読み進めていくと意外とそうでもない。実は同じことを言ってたりして。だから、これを聴き終わったところでやっとひとつのテーマが完結するっていう感じ。
──この曲は、“夏の好き間”の前あたりからやり始めていたと思うけど……押さえたテンポと曲調だからこそ、ライヴで聴いててもすごく沁みて。CDで聴くと、また味わい深くなってすごく良かった。
有紀:ライヴでもすごく歌いがいがあるんだよね、この曲。たぶん、こういう曲調って、自分でもすごく好きだし声に合ってるんだと思う。速くてビートの激しい曲もキライじゃないけど、「影送り」みたいな曲を歌ってる時の高揚感も個人的には好き。
──HIROくんはどうですか?
HIRO:俺も好きだね。アコースティックライヴをやってからかな? スローバラードに対するアプローチが結構変わってきて。それとたぶん……こういう楽曲を歌う有紀の歌を聴いて、気持ちが伝染してる……みたいなところはあるかな。
──ああ、それこそ“シンパシー”だよね。
有紀:うまい!(笑)
──うふふ。今の話の流れでパッと思いついたことではあったけど、このタイトルとこの収録曲になったのは、今のriceにとってある意味必然だったのかもね。
有紀:でも、たくさんある曲の中から選んだ今の6曲だから、偏りはあるよね。やっぱり、新しい曲を作ればそれを重点的に聴いてもらいたくなるし……。とはいえ、今回の「影送り」とずっと昔から続けてやってきている「Re:Bye」なんかは、同じ情景を指す“アンサーソング”になってたりして。そういった、見えないつながりや連なりみたいなものって、聴き続けてくれてるお客さんはもちろん、これからriceを掘り下げていこうとしてくれている人たちにも感じてもらいやすいかもね。
──アプローチ的にはいろいろではあるけど、やっぱり、riceが発信する以上は一本の線がある。
有紀:曲を作る時には、関連性みたいなものを少しは意識したりするし……
──そうやって、シンパシーの輪が静かな波紋のようにいつまでも続いていく……そんな力のあるアルバムだと言えるね。いつまでもずっと、いろんな人の心によりそう作品になることを願ってます。
最後のわがまま、ターニングポイントになる
10月28日のO-EASTは多くの人に観てもらいたい!
──さて、そしてそして、このアルバムの発売記念ライヴもいよいよ近づいて来ました。
HIRO:前回のO-EASTが4/28だから、ちょうど半年ぶり! でもまあ、特に難しく考えることなく、その時の想いをそのまま演奏できればいいかなって。その場をただ楽しめれば俺は満足。
有紀:俺は、最後のワガママになればいいなぁとは思ってます。
──“最後のわがまま”?
有紀:うん。今度のO-EASTは、商業的にもそうだけど、戦略も外部の介入も何もないところでやるライヴなんだよね。単純に、“この会場で今やりたいから、今ここでやる”っていう感じでさ。やっぱり、今までって、気持ちだけで乗り切ってきた部分がすごくあると思っていて……それを後押しして応援してくれているファンのみんなへの感謝の気持ちがそこにもちろんある。でも、この先は気持ちだけで進んでいくんじゃなく、感謝の気持ちをもっと充実した形で返していけるようになりたいんだよね。そういった意味では、今度のO-EASTは、いいキッカケのステージになるかなとは思う。
──結成9周年に向けてのターニングポイントのような?
有紀:そうだね。何の戦略も立てず、ただ、“ライヴやるから来てね”って言う形から、もっと意味を持つ形にひとつひとつのシーンを発展させていきたいから。これからはどんどん所帯も大きくなっていくだろうし、それに伴ってそれなりの覚悟がもっと必要になってくると思う。といったところで、今までの流れでのライヴという意味では今度のO-EASTが最後になるかなって。出来る限り多くの人に会えたら幸せです!