HP独占インタビュー【rice活動休止について】
第4回連載「海外見聞録」
第3回連載 特別企画「rice×ACID」
2010.11.1 at Shibuya O-EASTライブレポート
※ライター武市尚子氏(Team rice)のご厚意により提供いただきました。2010年11月1日Shibuya O-EAST。
彼らはこの日、“11月1日”という日に毎年ライヴをするようになって、10回目のステージに立った。
彼らにとって、“11月1日”は、生涯忘れることはない特別な日である。そして。ここに集まったオーディエンスにとっても、この日は、生涯忘れることのない特別な日でもある。もちろん。今、こうして原稿を書いている私にとってもだ。
“結論から言おう。riceはRaphaelではない──”
この1文は、私が今から10年前に、ボーカルの櫻井有紀とドラムの村田一弘が、2001年の4月にriceを結成して、riceとして初めてインタビューに答えてくれた時の冒頭に記した書き原稿の1行だ。
私は今も、言葉を選びながら、音楽家として生きて行くことを決めたことを語ってくれたYUKIとHIROの表情ひとつひとつを忘れることが出来ない。そして、私自身、いろんな想いを抱えながら、彼らの言葉ひとつひとつを受け止め、一字一字原稿にまとめていったことを覚えている。
そんなインタビューの中で、何故riceというユニット名にしたのか? と訊ねると、YUKIは、そこに特に意味はないと答えた。“HIROと、たまたまお寿司屋さんに居た時に考えたから、米でいっか! って(笑)”と。しかし。彼は、10年という歳月を経た今、ブログに、“ユニット名は、頭文字をどうしてもRにしたかった”と書き残したのだ。
そうだったんだ………。10年経った今、YUKIの書いたその文章から、そこに込められたYUKIとHIROの深い想いを、初めて知ることとなったのだ。多くを語らず、ただただ2人で音と歌を届けてきたrice──。
いろんな想いがあったことだろう。そして。まだまだ伝えきれない想いがそこにはあることだろう。しかし。彼らはその想いを音に変え、歌に変えて聴き手に届けてくれることを選んだのだ。
2010年11月1日。彼らは、そんないろいろな想いを抱えながら、10回目のステージで、音と歌に詰め込み、オーディエンスに届けたのだった。
開演前、久しぶりに顔を合わしたと思われるファンたちの会話が耳に入ってきた。
「元気!? 今なにやってるの?」
「今、1歳児のママやってるよ! だから、こうしてライヴに来るの2年ぶりなんだ~」
「そうなんだ! おめでとう! でも全然変わってないね! 元気そうで良かった!」
そんな彼女たちの会話に、彼らが決まってこの日にライヴをやり続けてきたことの大きな意味を感じた。この場所は、純粋にriceのライヴであることはもちろん、“あの頃の僕たち”が、“あの頃の僕たちで居られる場所”でもあるのだ。
楽しそうに話を続ける彼女たちの話に耳を傾けながら、パンパンに埋め尽くされたフロアに目を移した。友達と来ている人、親子で来ている人、カップルで来ている人、ひとりで来ている人、様々だった。もちろん。中にはriceになってからの2人に出逢って初めて彼らのことを知り、彼らが音楽家になったきっかけを遡って知った人も居たことだろう。しかし、そんな人達にとっても、この日のライヴは、もはや特別なライヴになっている様子だった。
彼らがこの日、1曲目に届けたのは「Brave Story」。間髪入れずに「to you」が届けられた。その時、私は無意識に鞄の中からペンとノートを取り出した。“書きたい!”という衝動が一気に込み上げてきたのだ。
彼らをレギュラーでインタビューしていた雑誌が無くなってしまった今、彼らをコンスタントにインタビューすることもなくなってしまったし、ライヴにもなかなか立ち合えなくなってしまったのだが、毎年、この日のライヴだけは、“そこ”に居るようにしてきた。しかし、レポートを書く媒体が無いこともあり、この特別な日のライヴを文字に残したことは一度もなかったのだ。この日も、仕事という訳ではなく、どうしても彼らのライヴが見たいという想いでO-EASTにむかっただけだった。ただただ、YUKIの歌を、HIROのドラムを、riceの音を聴くためだけに。
久しぶりにriceの音に生で触れた。無条件に心が震えた。そして、2曲目の「to you」の途中で、私は本当に無意識に鞄からペンとノートを取り出し、ライヴの様子を書き残していたのだ。誰からも頼まれていないのに。今日はライターとしてここに居る訳ではなく、ただただ彼らの音と歌を感じに来たはずだったのに──。
「平日だよ、今日。こんなに集まってくれてありがとう。なんだかんだで、11月1日にライヴをするのも10回目になっちゃいました。今日は、ガッツリ笑って、ガッツリ泣いて、みんなのイチバン大人げない姿を見せて下さい」(YUKI)
届けられたのは「Days」。変わらぬHIROのドラム。そして、YUKIの声。YUKIは、この曲の後半で、大きく声を伸ばした。音数を減らし、テンポを落とした楽曲の中で、伸びやかにYUKIの声が響きわたった。さすがだな。
他の誰にもない個性を、改めてそこに感じた。
YUKIは両手を真っ直ぐに前に伸ばし、その手を両横に広げた。これもYUKIのスタイル。10年前、いや、彼が歌い手としてステージに上がった時から変わらぬスタイルだ。ある時期は、この個性すらも、ぬぐい去らなければいけないのかと悩んだ時期があったのではないかと思った。彼が歌う以上、HIROがドラムを叩く以上、やはりずっとその姿は変わらない訳で、聴き手はどうしても、純粋に彼らが発する音と声を、新たなモノとして受け入れがたかったはずだし、“そこ”に重ねてしまったことだろう。だからこそ、私は10年前、敢えて結論から記す冒頭を選んだのだ。“結論から言おう。riceはRaphaelではない──”と。これは、否定的な言葉ではない。むしろ、彼らが何よりも大切に想っている“そこ”を守りたかった故の言葉であったし、純粋に彼らがriceとして発する音と歌を受けとめて欲しかったからである。あの頃は、言葉でそう説明するしかなかったし、その必要があった。
しかし。今は、もうその必要はない。ちゃんと、2人の個性はriceとなった上で、riceとしての音と歌を求めてオーディエンスが集まっていることを、この日、このステージに感じたのだ。
もちろん。大切なモノを忘れた訳ではない。そこは彼らが音楽を始めた原点なのだから。しかし。彼らは今、歌い手・櫻井有紀として、ドラマー・村田一弘として、riceとしての音と個性をそこに確立させたのだ。
この日、彼らの音と歌を久しぶりに聴き、彼らが目指す、【誰にも真似出来ないロック】を、そこに作り上げたのだと確信した。
感じ方も変わった。6曲目に届けられた「Since」を聴いた時、そう思った。コロコロと転がるような音色が印象的な木琴の愛くるしい音とは対照的に、マイクが拾うYUKIの吐息までもが曲の一部となっている、深い深いところまで沈んだ感情に触れる異色曲。声を荒げ、“私を見て。私を見て。私を見て。私だけ──”と叫ばれるこの曲と歌詞に込められた意味を、当時は必要以上に探った。胸がしめつけられ、苦しくなった1曲だった。しかし、今は、必要以上の意味を詮索することなく、人間の持つ、自然な業が赤裸々に吐き出された1曲だと受けとめることが出来るようになった。
その後、続けて届けられた「雪の彩」「Fake Star」、そして、“君は上手に笑えている?”というメッセージを含んだナレーションを挟んで届けられた「月の彩」「花の彩」も同じく。rice結成当初から届け続けられているこの曲たちのひとつひとつに込められた意味を、誰もが深く探ったことだろう。でも、今になって思うのだ。彼らは、特別なことを届けたかった訳ではなく、その時の、どこまでも素直な感情を、どこまでも素直に叫んでいただけだったのだと。この歌たちに込められた想いを、今の彼らが歌うからこその深さを感じた流れであった。
「今日のライヴで、歌えることを一番楽しみにしてた曲を次に歌います。HIROがアルバムのために書いた曲。作詞作曲・村田一弘。「again」──」(YUKI)
メインコンポーザーとしてriceのほとんどの歌詞と楽曲を手掛けるYUKIは、昔からHIROが曲を書き、歌詞を書くと誰よりも喜ぶ。積極的に前に出ようとしないHIROの素直な気持ちを、YUKIは、彼の曲と歌詞から感じ取るのだろう。
10月6日にリリースされた6年ぶりのフルアルバム『Neil』の12曲目に収録されている「again」は、“「ありがとう」それだけで全部伝わるのかな?”そんな歌い出しから始まる。感謝の想いを伝えるには、なによりも直接的なこの言葉をも疑問に感じることがある心情を現したHIROの歌詞からは、言葉では言い尽くせないほどの深い“ありがとう”が溢れた1曲だった。
およそ2200人の子供の写真で構成されている『Neil』のジャケットは、“未知への挑戦、開拓”というアルバムコンセプトとリンクする、子供たちの未来と、これから、彼らが出逢っていく“ありがとう”に向けられたモノだと、私は思った。
そんな『Neil』でもラストを担っている、riceで一番最初に作った曲「Air」が本編ラストで届けられた。この曲を最後に持ってくるのも、ずっと変わらないこと。YUKIのベースとラララで歌われるメロディーと、HIROのドラムとチェロだけで構成されたシンプルな曲は、riceの原点を改めて感じさせられた1曲だった。
アンコールでは、10年の時を越えてやっと音源化出来たと言う「Rain」が届けられ、ダブルアンコールでは「STAY」が届けられた。オーディエンス全員で声を重ねあった「STAY」は、とても綺麗な景色だった。
2011年の4月で結成10周年を迎えるrice。
彼らと、彼らを愛する人達が、この先もたくさんの“ありがとう”と出逢えますように──。
Dear My friend.
私たちを友達と呼んでくれる彼らに。
Dear rice.
この時間をありがとう──。
Writer : 武市尚子
【セットリスト】
Opening SE:Neil
1.Brave Story
2.to you
3.Days
4.勿忘草
5.Cicada
6.Since
7.アイスクリーム
8.アンゲルディエ 雪の彩
9.Fake Star
SE:朗読
10.アンゲルディエ 月の彩
11.アンゲルディエ 花の彩
12.Hello
13.Transfer
14.mia
15.凛
16.again
17.Re:Bye
18.Air
SE:Up to Tiptoe
<Encore1>
19.Rain
20.Sing you
SE:Up to Tiptoe
<Encore2>
21.STAY
Ending SE:真胎殿 大地望郷