HP独占インタビュー【rice活動休止について】
第4回連載「海外見聞録」
第3回連載 特別企画「rice×ACID」
あまりに突然だった、10月8日の活動休止宣言。
あれから1ヶ月ほどの時間が経ち、riceを応援してくれているみなさんの気持ちにも少し落ち着きが戻ったころだと思います。
ライヴで語った彼らの本心を今ここでもう一度聞き直すことで、本当に誤解のない状態で、有紀とHIROをしばしの充電期間に送り出してあげられたら……。
深夜の居酒屋でお酒を飲みながら行なったインタビューで、オブラートに包むことのない心からの言葉を話してくれたふたり。
少しショッキングなエピソードもあるかもしれないけれど、不器用ながらも正直に生きようとするふたりの姿勢からの決心であることをわかってもらえたら幸いです。
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バンドをこれからも続けていくためには、
パートナーとして120%の気持ちで接していけるよう、
お互いの環境を整えないといけない。
──オフィシャルサイトでのインタビューは2年以上ぶり。さて、何から話しましょう。やっぱり、活動休止についてからかな。ライヴでもサイトでのオフィシャルコメントでも決断の理由を語ってはいるけれど、改めてじっくり聞かせてください。
有紀:自分たちの会社…riceを守るためだけの組織を作ってもう1年半が経ってるんだよね。事務所運営に関しては、関わる全員が1年生の中でスタートを切ったからミスが当たり前で……どんなことからも学んでいこうよっていうフラグを掲げてやり始めたんだけど。でも、この1年半で結局、新たな出会いもあったけど別れのほうが多くなってしまって。振り返ってみたら、“いろんなできごとを糧にしてこれからもやり続けていこう”って思い続けていられたのはriceのふたりしかいなかったって感じなのね。会社の運営に固執したりこだわってるつもりはないんだけど、riceを守るための組織を作ろうと思っていたのに、結局その組織作りに労を要してしまうという本末転倒な事態が続いてしまって。
──riceを支える仲間たちのことは“チームrice”と呼んでいて、とても結束が強く心強い関係だと思っていたけれど、それではビジネスにならなかった?
有紀:ここ数年間って、ミラクルな出会いでやり過ごして来てしまったというか。窮地の時に現われる人がいて、その人たちの力を借りて活動を回してはいても、その人たちがいないと次につながらないってことになっちゃうんだよね。中には、その場その場で取ってつけたようなハリボテのようなもので繰り返して来たんだけど、そうじゃないれっきとしたものがほしいなって思ってたんだけどね。
──それを作ろうと1年半前に“Air's rock”を立ち上げたけど……。
有紀:ファンクラブも発足したし、riceを必要としてくれているお客さんが増えているのも事実。だけど、いかんせん、活動を回していくための土台がない。サポートメンバーしかりなんだけど、riceのふたり以外のチームメンバーは、愛情だけで僕らを支えてくれてたっていうか、その無償の愛に自分たち自身が無意識で甘えてしまったんだよね。活動が上り調子でいろんなことが充実していれば、音楽をやっているだけでよかったはずなのに、今の時代はそうじゃない状況になっちゃってるというか。今は事務作業を自分で賄うことも多くてさ。でもそれって、今の自分たちが最優先にやるべきこととは違うのかなって思うと……。
──活動を続けながら体制を立て直すことは無理なの?
有紀:現状維持はできると思うんだよ。ここから1年踏ん張ることも、5年踏ん張ることもできるとは思う。でも、創作活動をしている以上、今より大きな規模や高みを目指したいと思う気持ちはつきものなわけで、そうなるためには今のままではいたくない。そうやって考えると、一度勇気を持って体制を立て直すためにリセットが必要なのかなって。気持ちや愛っていう曖昧なものじゃなく、紛れもなく“自分たちのチームはこうだ”って言えるような関係をスタッフと築けないとチームとはいえないのかなって。事務作業を自分たちで賄うことが多いって言ったけど、本来は音楽をやるべき人間が事務作業をやるって、やったことがなければ存分にできないのは当然でしょ。でも、請け負ったら、周りは成果を期待するじゃない。それで、100点のうちの80点しか点が取れない仕事ぶりだったら、普通なら80点ってかなり高い点数なのに、なんでできないんだっていうバッシングの対象になる。そういう状況を見て、バンドをこれからも続けていくためには、パートナーとして120%の気持ちで接して行けるように、お互いの環境を整えないといけない。
──活動休止の発表から1ヶ月が経とうとする今、さらに突っ込んだこういう話を聞くことで、お客さんたちはどう感じるかな。
有紀:riceの音楽に飽きちゃったなんてことはもちろんない。音楽を一緒に作る上でヒロ以外にほかのドラマーに興味もわかない。そのへんは誤解せずに理解してもらえたらなとは思ってる。
──riceで表現してきた音楽に飽きが来たとか……そういう理由だったら、riceの曲を大好きだと思う私たちの気持ちの持って行き場がなくなっちゃうよ(笑)。
HIRO:ありがたいことに、そう言ってくれる人は多いよ(笑)。
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「Fake star」は12年riceを続けてきた今、
華月の13回忌にあたる今しか出すチャンスがない曲。
──オフィシャルサイトには、“創作活動に充てる時間の確保”ということも、活動休止の理由のひとつとして挙げられてるけど……。
HIRO:うん。そういうことをする時間が欲しいんだよね。
有紀:踏ん張って来た1年半の間に回り切れてなかった小道をもう一度歩き直したいというか。
──というのは?
有紀:チームの所帯が大きくなると、曲がり切れなかった角がたくさんあって。これからは、個人という単位にまで規模を落とし込んで、見落としてきた小道を自分でもう一回歩き直してみようと思うんだ。もしかしたらそこに、まだ見ぬファンとの出会いやまだ知らない自分の素質に巡り会えるかもしれないし。歌の練習をする時間もほしいし、逆に、何もしない時間を持つことは何年もしてこなかったから、まとまったオフを設けるのもひとつかもしれないし。ヒロはヒロで引く手あまたで、ゲストやサポートの仕事でいろんな声がかかってるからさ。
──この機会だからハッキリ聞くけど、今回のriceの活動休止はRaphaelの再演とは関係がある?
有紀:Raphaelの再演を考えたのは2年前で、Air's Rockというチームは1年やって答えを出そうと思って始めたこと。それがちょうど重なったというか重ねたというか……。言い方はすごく不謹慎かもしれないえど、いろんなヤマを同じ年に持っていきたいということは、すごくボンヤリではあるけど、前々から考えてはいたかな。2年連続で大きなトピックがあったら、みんな息切れしちゃうでしょ?ただ、予想とまったく違っていたのは、Air's Rockとriceに関してのヤマは、活動を止めるっていうことではなかったんだけど。さらなる大きな組織にするっていうトピックであると考えていたから、そこは正直にもの凄く悔しいけどね。
──10月24日にリリースになったriceの新曲「Fake star」は、Raphael時代に原曲ができていたんだよね。そんなエピソードのある曲をこのタイミングでリリースしたのにはどんな理由が?
有紀:この曲は、riceの立ち上げ公演からずっとライヴで演奏して来た曲だけど、思い入れがすごく強くて。いつのころからか、華月の13回忌は自分の中のフラグにしてたんだけど、もしも自分がその時まで舞台に立っている人間であったら、riceを続けていられたら、その時期に出したいっていう気持ちがずっとあったんだよね。そういう想いの中でがむしゃらにriceをやって来たからこそ、活動を12年間続けることが実現できたなっていう感じはあるし。だからこそ、今しかこの曲を出すチャンスはないんだよね。まあ、当時思い描いていた青写真とは若干ズレはあるけど……。武道館でリリースの発表をするっていう野望はあったけど、世の中そうそううまくいかないっていう(苦笑)。こんな話を今さらすると、取ってつけたようなネタじゃないかって思われるかもしれないけど、長い間淡々と思い続けて来たものが形になったのは事実。
──そういう理由がなければ、こんないい曲を12年間も音源化せずにはいないと思うけどな。取ってつけた理由だって思う人なんているのかしら。
有紀:12年って途方もない年月じゃない?それをさらっと言葉で言うとどうしても薄っぺらくなるからね。
──まあ……。人が亡くなってからの12年を長いと思うかそう思わないか、捉え方は人それぞれだからね。
有紀:ホント、そうなんだよね。ずっと適切な言葉が見つからなかったんだけど……。慣れたでもないし、強くなったでもない。実はそんな難しいことじゃなくて、悲しみはなくならないけどその続きが生まれて来ただけなんだなって。でもそれって、人から見たら、冷酷に見えることもあるかもしれなくてさ。僕らは特に、不特定多数を相手にしてるから、アクションを起こそうと思うと批判を受けるし誰かに抑止されたりもする。その繰り返しの中で12年かかっちゃったんだよね。
──ここまで、ほとんど有紀くんと話してきたけれど(笑)。ヒロくんはどうですか? ここまでの話の流れでの自分の気持ちは。
HIRO:有紀も話してたけど、俺らふたりの関係がマズくなったとか、riceに対してのモチベーションが下がったとか、そういうことが原因での活動休止じゃないっていうことがしっかり伝わっていけばいいかな。今以上の状況を目指すための決断だということをわかってもらえたらうれしい。有紀はなんでも器用にこなせるから、そういうのを見てるのも俺としてはちょっとっていうのもあって、本分じゃない部分でこれだけ負担を掛けてるっていうところにやっぱり引っかかりはあるから。もっと伸び伸びと曲を作らせてやりたいとか、音楽に専念する時間を作って欲しいっていう気持ちはやっぱりあるからね。
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2012年、ライヴの本数も残り少ないけど、
ひとりでも多くの人に“待っていよう”っていう
気持ちになってもらいたいと思ってる。
──先ほど話に出た「Fake star」について、当時のエピソードと制作秘話を聞かせてもらえる?
有紀:生前の華月が、“いいじゃん、これ。カッコイイよ。次のリリースで形にしよう”って言ってくれて。でも、そう言ったままあいつは逝っちゃったから。
──歌詞はまだついてなかった。
有紀:あの当時は俺は自分で歌詞を書いてなかったからね。華月がいなくなって、うやむやになってるなと思いながらも……自分で産み落としてる曲だからメロディーは頭に残ってて。そんな中でriceの結成が実現して、自分で歌詞書いてアレンジして形にしたんだ。
──2タイプ出るシングルの収録曲、合わせると全部で4曲だけど。カップリングはどうセレクトしたの?
有紀:一緒に入る曲たちのことって、“カップリング・ウィズ”って言うでしょ? だからやっぱり、表題曲に花を添えてあげられることが命題というか。表題曲が言わんとすることを補足できるというか、時代背景ひとつとってもそうだけど、表題曲の意味合いを深めるとかさ。そういう部分をすごく考えた上でのラインナップ。中でも「Re:Bye」はヒロとも言ってたんだけど、“「Fake star」出すならカップリングはこれしかないよね”みたいな。
HIRO:この2曲はセットでね。
──私、思い違いをしてたんだけど、「Re:Bye」って音源化されてなかったんだよね。
有紀:そうなのよ、実は。
HIRO:デモ的な感じで録音はしたことは昔あったけど、正式な発表は今回が初めて。
──一度出ていて、今回はてっきり再録なのかと思ってた。失礼しました……。
有紀:大丈夫。サポートメンバーの幾人かも似たようなこと言ってたから(笑)。一瞬自信がなくなって、よくよくひもといてみたの。そうしたら、ライヴで何百回も弾いてるだけだった(笑)。
HIRO:リハスタとレコスタの違いだけ(笑)。
──「Fake star」にしても「Re:Bye」にしても、結成当時から12年以上riceとともに歩んで来た楽曲だけど、歌詞のメッセージがおそろしいぐらい今のふたりの姿とズレがないんだよね。
有紀:「カサブランカ」は書き下ろしだけど、これも、表題曲との相性を大切に執筆したよ。実は、「Friends the nation」もそうだけど、ストック曲の中には「Fake star」と相性のいい曲がほかにも残ってたんだ。でも、何か書いてみようと思って。原案があったわけでもないし、アイディアが浮かんでたわけじゃないんだけど、書きたいなって思った。気づいたら1年以上も作曲してなかったんだよね。何がそんなに忙しかったのかなって考えたら、音楽人として忙しくしてたわけじゃないってことに気づいて悲しくなっちゃって。
HIRO:どれも「Fake star」と相性のいいカップリングで、バランスのいいシングルになったと思う。申し分のないまとまりかただし、出来もいいし、間違いなく今一番ホットな作品。自信を持って世に出せるかな。
──うん。これを聞いたら、“復活まで待ってるよ!”って素直に思えた。そんな、未来が見えるシングルだなって。
有紀:うん! 年内はライヴの本数も残り少ないけど、ひとりでも多くの人に“待っていよう”っていう気持ちになってもらいたいと思ってる。復活までどれぐらい時間がかかるかは現状でははっきりわからないけど、一日でも早くいい形でカムバックできたらいいなって。でも、このお休みの間は、いいチャンスだと思って自分磨きもしないと。再開(再会)の日までは、やっておかねばならないこととかいっぱいあるだろうからね。
文 • インタビュー:きーぼう